この記事の著者
T.A.|ITコーディネータ(テクノア ブランディング戦略室)
Webマーケティングを軸に多業種のシステム支援に携わってきたITコーディネータ。制度と現場の両面からお客様の課題解決を支援しています。
※本記事は、生成AIを編集の補助として活用し、内容の企画・編集・事実確認は筆者が行っています。
ー本記事の3つのポイントー
・ファンが求めるのは「完成品」ではなく「余白」
約4.1兆円規模へと成長した推し活市場。能動的なファンは、与えられた完成品を消費するだけでなく、自分の手で広げられる「余白」に価値を見出しています。
・眠れる資産(アセット)も立派なIPになり得る
IPとはアニメやキャラクターだけではありません。ロゴ、ブランド名、廃盤になった名車両の姿など、誰かの「愛着」や「思い出」が残るアセットも、ファンの手を経て再び日常のなかで生き直す可能性を秘めています。
・完成品を急がず、まずは「広がる未来図」を描く
ライセンサーを目指すIPホルダーに必要なのは、作り込みすぎないこと。「売れるか」よりも「ファンが広げたくなるか」を問い、ファンが入り込める隙間(余白)を設計することが成功への近道です。
前回のコラム「【展示会レポート】コンテンツ東京で見えたIPビジネスの最前線。ライセンサーとライセンシーが繋がるための課題とは」では、コンテンツ東京の現場から、ライセンサーとライセンシーが繋がるための課題を3つの切り口で見ました。実績のない新規・新興IP、今風のグッズへ落とし込みきれない伝統あるブランド・アセット、キャラクターを持たないライフスタイルIP──。どれも「どう商品化を伝えるか」という、作り手と作り手の間にある課題でした。
ですが、その手前に、もう一つ大きな問いがあります。そもそも、ファンは何を求めてグッズを手に取るのか。ここを取り違えると、どれだけ丁寧な企画書を用意しても、熱は生まれません。今回は、推し活の現場をよく知るOshicoco社の知見も借りながら、「ファンの側」から眠れるIPの価値を見つめ直してみます。
そもそも、IPとは何か
本題に入る前に、言葉を一つそろえておきます。ここで言うIP(知的財産)とは、アニメやキャラクターだけを指すのではありません。ロゴやブランド名、製品の形、さらには長年で培われた知名度や世界観まで——「誰かが価値を感じてくれる、固有の何か」のすべてを含みます。法律で守られる著作権・商標権・意匠権はもちろん、まだ権利の形になっていない記憶や愛着も、ビジネスの場では立派なIPです。
「版権」と呼ばれることもありますが、これは主に著作権まわりを指す通称で、IPの一部にすぎません。この記事では、もっと広くIPを捉えます。前回ふれた「アセット」も、そうしたIPの一つです。だからこそ、廃盤になった車も、地域の名物も、眠れるIPになりえます。
推し活とは、「好き」を"自分だけの形"にしたい衝動である
推し活を「ファンがグッズを買う行為」と捉えると、話はとても小さくなります。実際の現場は、はるかに能動的です。
Oshicoco社は、推し活に特化したメディアとオンラインストア、そして全国での催事を通じて、ファンの動きを間近で見てきました。同社が共同設立した調査機関「推し活総研」の調べでは、推し活市場の規模は約4.1兆円に達し、国内の清涼飲料市場(約4.7兆円)に迫ります。その熱は、もはや一過性のものではありません。
膨大な現場から見えてくるのは、ファンは「与えられた完成品を買う」だけでは満たされない、という事実です。同じアクリルスタンド一つでも、ファンは自分の推しに合わせて選び、飾り、持ち歩く。「好き」を、自分の生活のなかの"自分だけの形"に変えたい——この衝動こそ、推し活の中心にあるものです。
つまり推し活とは、消費というより、表現に近い。ここを起点に置くと、IPの価値の見え方が変わってきます。
ファンが欲しいのは「完成品」ではなく「余白」

従来のIP活用は、権利元が完成品を設計し、ファンはそれを買う、という一方通行の形が中心でした。けれど推し活が教えてくれるのは、ファンは"作り込まれた完成品"よりも、"自分の手で広げられる余白"を求めている、ということです。
Oshicoco社の多田夏帆代表も、出版社や芸能事務所、IPの管理会社などから相談を受けるなかで、似た手応えを語っています。タレントを見つけ世に広める力は申し分ないのに、いざグッズになると「推し活女子の気持ちまでもう少し」届かないことがある、と(Link X Journal、2025年)。広める力と、ファンの手元の熱との間に、わずかな溝があるのです。
この溝は、IPが悪いわけでも、企画が雑なわけでもありません。「ファンがどう広げたいか」を先に想像できていない、というだけのこと。逆に言えば、余白を残したIPほど、ファンの手で思いがけない広がり方をします。
廃盤になった名車両という、眠れるIP

具体例で考えてみます。たとえば、もう生産されていない往年の名車両。メーカーにとっては過去の製品かもしれませんが、その姿に思い入れを抱く人は今も少なくありません。これは立派なIP、眠れるアセットです。
ここに推し活の視点を重ねると、どうなるか。Oshicoco社は「推し活×モビリティ」という切り口で、人が乗り物に寄せる愛着を調べる試みも行っています。車もまた、誰かにとっての"推し"になりうる、ということです。
その名車両の姿を、ファンが自分の推し——好きなキャラクターでも、思い出の場所でも——と掛け合わせ、自分だけの一品に仕立てる。これは権利元が用意した完成品ではなく、ファンが余白を使って広げた価値です。眠っていたIPが、ファンの手を経て、再び日常のなかで生き直す。これこそ、推し活が眠れるIPに与えられる役割だと考えています。
IPホルダーへの、3つの提案
ここまではファンの側から話を進めてきました。では、IPを持つ側——ライセンサーを目指すIPホルダーは、何から始めればいいのでしょうか。完成品づくりを一段手前で止めて考える、3つの提案にまとめます。
提案1:「売れるか」より先に「広げたくなるか」を問う
在庫リスクを見積もる前に、ファンが自分の形にしたくなる余白が、そのIPにあるかを見る。需要があるかどうかは、その問いの答えのなかに隠れています。
提案2:作り込みすぎない。余白を設計する
完璧な完成品より、ファンが手を加えられる余地をあえて残す。隙のないデザインは美しい一方で、ファンが入り込む隙間まで塞いでしまうことがあります。
提案3:最初の一歩は、現物ではなく"未来図"から
試作品をいくつも作る前に、「このIPがファンの手でどう広がるか」を一度描いてみる。広がった姿が見えれば、本当に進めるべきかどうかの判断も、ぐっと早くなります。
3つに共通するのは、完成品を急がない、という姿勢です。急いで形にするより、ファンの余白を先に見る。それが、眠れるIPを起こす近道になります。
結び:その問いを、自分のIPに向けてみる

ファンが求めているのは、完成品ではなく余白である——。この記事で伝えたかったのは、その一点です。
手元のIPに、ファンが入り込める余白はあるか。眠っているアセットは、誰かの"推し"になりうるか。まずはこの問いを、自分のIPに向けてみるところから始まります。
考えを形にする手立ては、いくつもあります。たとえば、試作品を作らずに「広がった未来図」を画面で見せる仕組みもあり、私たちが提供する「i-DESIGNER」もその一つです。ただ、どんな手立てを使うかは、その次の話。大切なのは、まず「自分のIPの余白」に気づくことだと考えています。
参考・出典
- 前回のコラム:【展示会レポート】コンテンツ東京で見えたIPビジネスの最前線。ライセンサーとライセンシーが繋がるための課題とは(i-DESIGNER、2026年)
- 推し活市場の規模:推し活総研「第3回 推し活実態アンケート調査」(2026年1月実施、回答23,125人)。Oshicoco社と株式会社CDGが共同設立した調査機関
- 多田夏帆代表のコメント:「Oshicoco(おしここ)」Z世代推し活女子のパワーをインストール(Link X Journal/IZUMO株式会社、2025年4月)
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