自分だけのオリジナル商品を求める消費者が増え、カスタムオーダー市場が拡大しています。
背景にあるのは、EC市場全体の成長です。世界のEC市場は年々拡大を続けており、消費者がオンラインで商品を注文する行動は日常の一部となりました。同時に消費者のニーズも多様化し、「既製品よりも価格が高くても、自分だけの一点を選びたい」という志向が強まっています。
こうした流れの中で、製造業やEC事業者の間で関心が高まっているのが「在庫を持たない製造」という考え方です。注文が入ってから作る。売れ残りを出さない。この仕組みを体系的に表した概念が「C2M(Consumer to Manufacture)」です。本コラムでは、C2Mの基本的な仕組みから、海外・国内の動向、そして構造的な課題までを整理します。
C2Mは、消費者から直接注文を受け、製造者がその注文に応じて商品を作るモデルです。
従来の製造・販売の流れは「メーカーが商品を企画し、工場で大量生産し、卸売・小売を経て消費者へ届ける」という順番でした。この方法では、売れ残りが在庫として積み上がるリスクを常に伴います。
C2Mはこの流れを逆転させます。消費者が「この商品がほしい」と注文し、その注文データをもとに製造者が生産を開始する仕組みです。中間の卸売・小売を介さないため流通コストを削減でき、在庫リスクもゼロに近づけることができます。
身近な例で言えば、名刺やTシャツのオンラインオーダーをイメージするとわかりやすいでしょう。デザインを選び、枚数を指定し、注文を確定してから印刷・製造が始まる。この仕組みを、さまざまな商品カテゴリーへ大規模に広げた考え方がC2Mです。
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従来モデル |
C2M |
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起点 |
メーカーの企画 |
消費者の注文 |
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製造タイミング |
需要予測に基づき事前に生産 |
注文確定後に生産開始 |
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在庫リスク |
あり(売れ残りの可能性) |
ほぼゼロ |
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流通経路 |
メーカー→卸→小売→消費者 |
消費者→メーカー(直結) |
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リードタイム |
短い(在庫があれば即納) |
長くなる傾向がある |
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向いている現場 |
定番品・大量販売の商材 |
カスタム品・多品種少量の商材 |
(参考:[GMOクラウドEC「C2Mとは?完全受注生産型ECビジネスを徹底解説」](URL))
(参考:[ebisumart「完全受注生産型の無在庫販売ビジネスモデル『C2M』とは?」](URL))
中国では、大手ECプラットフォームがC2Mモデルをいち早く実用化しています。
代表格がPinduoduo(拼多多)です。Pinduoduoは消費者の購買データを製造業者と直接共有し、「売れる商品を、必要な分だけ作る」C2Mプラットフォームを構築しました。中間マージンを省くことで低価格を実現し、短期間で中国EC市場の主要プレーヤーへと成長しています。Alibabaも「淘宝特価版」を通じてC2M戦略に取り組んでおり、消費者データを製造計画に反映する仕組みを整備しています。
(参考:[APPAREL WEB「中国で主流になるビジネスモデルC2Mとは」](URL))
(参考:[EC-ORANGE「C2Mに再注目!変容する社会と消費者意識にマッチするビジネスモデル」](URL))
(参考:[SI Web Shopping「C2Mとは?完全受注生産型ビジネスモデルについて詳しく解説」](URL))
特にアパレル領域での活用が先行しています。SHEINに代表される「超高速サプライチェーン」は、厳密にはC2Mとは異なりますが、消費者の行動データを製造計画に直結させるという点で、C2Mと共通する思想を持っています。SNS上のトレンドをリアルタイムで解析し、小ロットで試作した後、反応が良い商品だけを増産する手法は、従来のアパレル産業の構造を大きく変えつつあります。
(参考:[NEC wisdom「中国発EC『Shein(シーイン)』は『究極のビジネス』か?」](URL))
日本ではC2Mの認知はまだ限定的ですが、先駆的な事例が生まれました。
代表的な例が、エムシーファッション(旧 三菱商事ファッション)が立ち上げたC2M型アパレルブランド「THE ME」です。THE MEは、消費者がオンラインで体型データや好みを入力し、そのデータにもとづいて衣服をオーダーメイドで製造する完全受注生産型のサービスでした。2020年に東京・神宮前(表参道エリア)に実店舗もオープンし、オンラインとオフラインを融合した購買体験を提供していましたが、2025年12月にサービスを終了しています。
(参考:[THE ME公式Instagram @the_me.tokyo](URL))
THE MEの取り組みは、日本におけるC2Mの先駆的な事例として注目を集めました。一方で、C2Mモデルを事業として持続的に運営していくには、まだ業界全体で乗り越えるべき課題があることもうかがえます。
C2Mという言葉そのものの認知度は、日本のEC業界の一部にとどまっています。製造業全体に目を向けると、C2Mの概念を体系的に理解し、自社のビジネスへ応用しようとする動きはまだ多くありません。裏を返せば、日本市場にはC2Mの成長余地が大きく残されているとも言えます。
C2Mは受注の仕組みを整えましたが、製造工程との接続に課題が残っています。
C2Mモデルでは、消費者がオンラインで注文を行います。送られてくるのは、画像データ、色の指定、サイズ、テキストといった「消費者の言葉」で表現された情報です。しかし製造現場が必要とするのは、印刷用の入稿データ、色番号(カラーコード)、加工仕様書といった「製造の言葉」に変換された情報です。
注文データと製造データは断絶している
「消費者の言葉」と「製造の言葉」の間には、大きなギャップがあります。たとえば、消費者が「赤いTシャツ」と指定しても、製造現場では「PANTONEの何番か」「生地素材による発色の違いをどう補正するか」まで確定しなければ生産に入れません。
SHEINやPinduoduoのような大規模プラットフォームでは、AIやシステムへの大規模投資によってデータ変換の自動化が進んでいます。一方、中小規模の事業者がC2Mを推進しようとすると、同等のシステムを自社で構築することは現実的ではありません。現在、特に中小規模の事業者においては、この変換を専門知識を持つスタッフが手作業で行っているケースが多いとされています。注文件数が増えるほどデータ変換工程がボトルネックとなり、人件費やリードタイムの増加につながります。
C2Mは概念としては合理的ですが、現時点では大規模な投資が可能な企業に有利な構造を持っているとも言えるでしょう。「注文を受ける仕組み」としては完成度を高めている一方で、「注文データを製造データへシームレスに変換する仕組み」は、多くの中小事業者にとって未解決の領域です。ここにC2Mの構造的な限界があります。
C2Mは、消費者と製造者を直結させる合理的なモデルです。しかし注文データと製造データの間にある「変換の壁」が、特に中小規模の事業者にとって、カスタムオーダービジネス拡大の障壁となっています。
この構造的な課題を乗り越えるために、いま私たちテクノアが注目する考え方があります。
「D2M(Design to Manufacture)」──消費者がデザインを楽しむ体験そのものを、製造データに直結させる、C2Mの限界を超えようとするアプローチです。
次のコラムでは、D2Mとは何か、そしてテクノアがなぜこの概念に注目するのかを紹介します。
C2Mの先へ──D2Mとは何か? "注文"を届けるか、"体験"を届けるか(URL)
Q1. C2Mは小規模な事業者でも導入できますか?
導入は可能です。
名刺やTシャツなど、テンプレートベースの受注生産であれば、比較的小さな体制でもC2Mの仕組みを取り入れられます。ただし、カスタマイズの自由度が上がるほど注文データの変換に専門人材が必要となるため、対応する商品範囲を絞ってスモールスタートする方法が現実的です。
Q2. 既存のECシステムにC2Mの仕組みを組み込めますか?
ECシステム単体でC2Mを完結させることは難しい場合が多いです。
C2Mでは受注データを製造現場に渡すまでの「データ変換」が発生するため、ECフロントだけでなく、製造管理や入稿データ生成といったバックエンドとの連携が求められます。お客様が自社の環境に応じて、段階的に連携体制を整えていく方法が取られています。
Q3. C2Mと一般的な「受注生産」は何が違いますか?
最も大きな違いは「取引構造」です。
一般的な受注生産はBtoB(企業間取引)が中心で、営業担当者が顧客の要望をヒアリングし、社内で仕様を確定させます。一方、C2Mは消費者自身がオンラインで仕様を決定し、製造者に直接注文するBtoC、あるいはCtoB(消費者→企業)の構造を持っています。不特定多数の消費者を相手に、仕様決定から受注までの仕組みをシステムとして設計する点が、従来の受注生産とは本質的に異なります。